日常にありながら、誰もそれを飾ろうとはしない道具がある。私たちは本展において、そうした最も慎ましい用具を起点に、機能という役割を退いたのちに立ち上がる「かたち」の在り処を探る。
革とテキスタイル、陶芸という異なる素材・技術を持つ三者がこの一点の道具に向き合うとき、そこには単一の答えではなく、複数の解釈が並走する。用途を失った瞬間、ものは初めて別の価値を宿しはじめる。実用性の輪郭が薄れ、意味や美意識がにじみ出てくる、その手前の時間である。
本展は、道具が文化へと転じる直前の、まだ名づけられていない状態を提示する試みである。