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ローカルな実践とその背後にある文脈に目を向ける

august 15, 2026

alter.の会場で展示されるプロジェクトは、国内外のコミッティメンバーによる審査を通じて決定されます。キュレーターやジャーナリスト、建築家などさまざまなジャンルから集まったコミッティメンバーは、一人ひとり異なる視点からプロダクト・デザインと向き合っているはず。alter.のジャーナルでは、インタビューを通じて各コミッティメンバーが現代のプロダクト・デザインをどう捉えているのか明らかにしていきます。

1人目のコミッティメンバーは、『Wallpaper*』をはじめグローバルなデザインメディアに携わってきたデザイン・ジャーナリストのLaura May Todd。書籍編集からキャリアをスタートし世界各地のローカルなデザイン文化を取材してきた彼女は、グローバルとローカルのあいだに立つジャーナリズムやメディアの役割をどのように捉えているのでしょうか。

デザインの背後にあるものの豊かさ

──いまLauraさんはデザイン・ジャーナリストとして『Wallpaper*』をはじめさまざまなメディアで執筆されていますが、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

私のキャリアは、イギリスのPhaidon Pressで書籍出版に携わるところから始まりました。その後ジャーナリズムへと移行し、現在はミラノを拠点に、デザイン、建築、インテリアについて複数の国際的な媒体に寄稿しています。

──ジャーナリストとして心がけていることはありますか?

ジャーナリストのキャリアは、ちょうど私自身がまったく新しい国に適応しようとしていた時期と重なっていました。イタリアという国の幅広い文化に触れ、その言語を学びながら、同時にイタリアのデザイン産業を取材する。

そうした日々のなかで気づいたのは、アウトサイダーとしてその国のデザイン文化を理解するためには、歴史や言語、社会的な文脈もあわせて理解しなければ本当の意味ではデザインを理解できないということでした。だから取材するときはいつもそのことを意識するようにしています。

──書籍編集から雑誌・オンラインのジャーナリズムへと移るなかで、ご自身の視点はどう変化してきましたか?

膨大なリサーチを伴うどんな仕事もそうだと思いますが、学べば学ぶほど、自分がいかに知らないか、そしてまだどれほど多くのことを発見すべきかが見えてくるんです。

 

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文化的なエコシステムの脆さ

──Lauraさんはインドや中国、レバノン、ウクライナなど、世界各地のローカルなデザイン文化を取材されていますよね。どんな取材が記憶に残っているでしょうか。

ひとつ挙げるとすれば、2019年のウクライナ取材です。他のジャーナリストやデザイナーたちと一緒に、ウクライナ各地の農村を回り、絨毯を織る人、陶芸家、木彫りの職人を訪ねていきました。みんな伝統的な技法を専門とする人たちで、その国の豊かな文化遺産との素晴らしい出会いになりました。

──その数年後にウクライナでは戦争が始まりますね。

こうした工芸の伝統やその担い手たちが危機にさらされただけでなく、私たちが比較的平和な状況下で彼/彼女らを訪ねることができた、最後の数少ない観察者のひとりになっていましましたね。文化的なエコシステムがいかに脆いものなのか。あの取材は、そのことを教えてくれたと思います。

──ローカルな工芸や文化も、実際にはグローバルな社会から影響を受けているわけですよね。グローバルなマーケットに消費されるのではなく、その固有性を保ったまま外の世界とつながっていくことは可能なのでしょうか。

工芸はその文化を理解するための、とても強力な手段です。だからこそ、ある工芸の伝統が育まれていく社会的な力の作用を念頭に置くことが、海外のジャーナリストとしてデザインを取材するうえできわめて大切になります。単に対象となるモノやつくり手を記録するだけでは足りません。彼/彼女らが立ち上がってきた背後の文脈を理解しなければいけない。たいていの場合、それこそがストーリーのなかでもっとも興味深い部分になっているからです。

 

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拡張するプロダクト・デザイン

──誰もがSNSで発信できる時代に、『Wallpaper*』のようなグローバル・メディアはどんな役割を担っていると思われますか?

オンラインコンテンツが際限なく流通する時代でも、やはりメディアは重要な役割を担っています。文脈や批評的な視点、編集的な厳密さを提供すること。SNSは「発見」の価値があると思いますが、ジャーナリズムはデザインをより大きな文化的会話へ接続し、なぜその作品が重要なのかより深く理解させてくれるはずです。

──「編集」の役割もまた大きくなりそうですね。

編集の重要性についても、語るべきことはたくさんあります。多くの場合、アイデアは経験と技量をもつ編集者の目に晒され、検証されるべきものです。

──さまざまなメディアでの編集・執筆を通じて、プロダクト・デザインのポジショニングやそれをめぐる言説、影響力はどのように変化してきたと感じますか?

私たちが「プロダクト・デザイン」と呼ぶものの定義そのものが、ずいぶんと拡張してきていると思います。たとえばミラノに住んでいる私が毎年取材するサローネ・デル・モービレ(ミラノ・サローネ)を見ても、もともとの家具見本市からファッション、ビューティ、テクノロジーまで巻き込んだ、はるかに広い文化的イベントへと進化してきている。プロダクトデザインがほかのクリエイティブ産業に取り込まれていく流れの、わかりやすい一例だと思います。

 

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小さく、ローカルな実践に目を向けること

──alter.は「機能」「美」「表現」の3つの観点からプロダクトを評価しています。今回の審査ではどんな観点を重視されますか。

3つすべてのフェアなミックスを期待したい、というのが正直なところです。デザインプロジェクトは、できるかぎり多面的であってほしい。機能はあるけれど美しくないものは、やはり物足りなく感じられてしまいますし、一方で純粋に表現や美しさだけで駆動するものは、機能をもつデザインというよりも、アートオブジェクトと見なされてしまうリスクがあります。

──プロダクト・デザイナーはさまざまな視点からクリエイティブに取り組む必要があるわけですね。現代のプロダクト・デザインやデザイナーは、どんな課題に直面していると感じますか?

最近、若いデザイナーからもっともよく聞く不満は、出展コストの上昇です。ミラノやコペンハーゲンのような大規模な国際フェアに出展することは巨大な経済的投資でもあり、その手段をもてない人もたくさんいますから。

──他方で、alter.もそうですが、デザインイベントのようなプラットフォームの数自体は増えてきているわけですよね。

デザイナーのためのプラットフォームや機会は、これまで以上に増えています。それでも、誰かの目にとまる機会へのアクセスはひどく不平等なままです。だからこそ私たち業界のプロフェッショナルやジャーナリストには、より小さなローカルイベントや展覧会で起きていることに目を向け、より広く多様なデザインのエコシステムを支える責任もあると思っています。

──ローカルなデザインを取材してこられたLauraさんから見て、日本のクリエイティビティやデザインにはどんな印象を抱かれていますか。

日本のデザインについて私がもっとも感嘆するのは、素材とディテールに対する繊細さです。現代の日本のデザイナーは特に興味深い存在で、伝統への深い敬意と、きわめて実験的なアプローチを併せもっていると思います。

──日本のデザインというと歴史的な実践に焦点が当たる機会も多いですが、現代のデザイナーに注目されているわけですね。

日本のクリエイティビティの多くを特徴づける節度や思慮深さに、私はとても惹かれます。世界の文化がスピードと絶え間ない可視性をますます優先していくなかで、それは貴重なものになっていると感じます。

──alter.の出展者は、まさにそんな存在かもしれません。alter.にどんなことを期待されていますか?

私はとりわけ、新しく若い、これから台頭してくるデザイナーたちに出会えることをいちばん楽しみにしています。展示プロジェクトとして採用されるものにかぎらず、alter.のようなプラットフォームの審査に関わることは、東京とその先で、現代のデザインシーンに何が起きているのかを発見するすばらしい機会になるはずですから。