創造とは「規律」ではなく、「探究」である
august 15, 2026
alter.の会場で展示されるプロジェクトは、国内外のコミッティメンバーによる審査を通じて決定されます。キュレーターやジャーナリスト、建築家などさまざまなジャンルから集まったコミッティメンバーは、一人ひとり異なる視点からプロダクト・デザインと向き合っているはず。alter.のジャーナルでは、インタビューを通じて各コミッティメンバーが現代のプロダクト・デザインをどう捉えているのか明らかにしていきます。
2人目のインタビューは、ロンドンを拠点に家具からファッション、彫刻、インテリアまで領域を横断して活躍するデザイナーのFaye Toogood。彼女の実践は、「Assemblage」と名づけられたシリーズやストックホルム・ファニチャー・フェアでのプロジェクト「MANUFRACTURE」など、一つひとつのプロダクトを超えた「思考の集積」として展開されています。果たして彼女は同時代のデザイナーにどんなことを期待しているのでしょうか。
規律ではなく探究としてのデザイン
──Fayeさんの活動は家具やファッション、彫刻、インテリアなど、さまざまな領域を横断しながら展開されています。どのような経緯で現在の活動が生まれていったのでしょうか。
私のキャリアは、一直線に進んできたものではありません。美術史を学んだのち、編集者として働き、そこからファッション、インテリア、家具、彫刻へと領域を移ってきました。
──カテゴリーを越境することは、最初から意識されていたんですか?
固定されたカテゴリーには、ずっと抵抗があったように思います。私にとって創造とは、ひとつの規律ではなく、ひとつの探究のかたちだからです。
──異なるカテゴリーのクリエイティブに取り組むなかで、一貫している意識はあるんでしょうか。
私の根底にあるのは、感情的な反応への興味です。モノはどのように行動を形づくるのか、素材はどのように記憶を運ぶのか、かたちはどのように感情に影響を与えるのか。とりわけ近年は、生活の多くがデジタル化され、身体的な経験から切り離されていくなかで、想像力や遊び、ジェスチャー、触覚といったものに、いっそう強く惹きつけられています。
View this post on Instagram
素材と形を通して語られる物語
──美術史を学ばれた経験は、デザインの仕事ともつながっていますか?
美術史は、私に「モノの見方」を教えてくれました。モノがより広い文化的・感情的な歴史のなかに存在していることを理解できたのは美術史のおかげです。
──雑誌の編集者だった経験もいまにつながっているのでしょうか。
編集は「物語の組み立て方」を教えてくれました。構成、リズム、明晰さを意識する訓練になったんです。美術史の研究と雑誌の編集、双方が私のデザインへの向き合い方をいまも形づくりつづけています。デザインとは単なる機能ではなく、素材と形を通して語られる物語だと考えているからです。
──領域を問わずそういった意識を抱かれているのでしょうか。
一貫しているのは、素材と感情的な反応、手でつくることへのコミットメントですね。私はつねに、純粋にデジタルなプロセスではなく、触覚と実験を通じて、身体的なところから始めるようにしています。
──他方で、家具やファッションなど分野ごとに固有のルールも存在するように思います。
だからこそ私は、領域を移動することを楽しんでいます。ファッションや家具、彫刻、インテリアは、それぞれが身体や空間、機能について異なる思考を要求してくるんです。
View this post on Instagram
プロトタイピングは発見、量産は妥協のはじまり
──Fayeさんの「Assemblage」は、ナンバリングされたシリーズとして発表されている点が特徴的です。シリーズとして展開することと単発のプロダクトをつくることのあいだには、どんな違いがありますか?
「Assemblage」は、個別のプロダクトをデザインするというよりも、ひとつの思考の集積を築いていく試みなんです。それぞれのピースは前のピースから派生し、形やアイデアが時間をかけて発展していく。
──完璧に完成されたひとつのプロダクトをつくろうとしているわけではないということですね。
私は「完璧な一品」をつくることよりも、複数の作品の集まりが、より大きな感情の言語を形づくっていくことに関心があります。シリーズとして取り組むことで、実験や矛盾のための余地が生まれるのです。
──ストックホルム・ファニチャー・フェアで発表された「MANUFRACTURE」では、制作のプロセスそのものを公開していました。「完成品」ではなく「プロセス」を見せることに、どのような意義を見出しているのでしょうか。
私にとって、プロセスは作品から切り離されたものではありません。プロセスそのものが作品なのです。「MANUFRACTURE」では、つくることの背後にある労働や実験、不確実さを明らかにしたいと思っていました。現代のデザインはしばしば洗練された結果だけを見せますが、その身振りやミス、調整こそが、モノに人間性と感情的な深みを与えていると私は考えています。
──プロダクトをつくるプロセスを考えると、プロトタイピングから量産へと移っていく過程で意識も変わっていくように思われます。
ひとことで言うなら、プロトタイピングは発見の場、量産は妥協の始まりです。それくらいの距離感をもって、両者を見ています。私の関心は、作品の感情的・触覚的な統合性をより大きなスケールへ移行する過程で保っていくことにあるからです。
──では、デザイナーにとって「スケール」とはどんな意味をもつのでしょうか。
スケールはデザインを民主化しうるものですが、同時にキャラクターや親密さをフラットにしてしまうこともある。デザイナーは、何かがスケールするときに、何が得られ何が失われているのかを慎重に問い直す必要があると思います。
View this post on Instagram
「規律」と「実験」を両立させるために
──alter.は「機能」「美」「表現」の3つの観点からプロダクトを評価しています。今回の審査ではどんな観点を重視されますか?
私が最も価値を置くのは「表現」です。それこそが達成しがたいものですから。
──「機能」や「美」と比べて、なぜ「表現」が難しいのでしょう。
多くのモノは、機能としては優れていて、見た目としても洗練されています。しかし、明確な感情的視点を備えたものは、それよりずっと少ない。私は素材やコンセプト、フォルムが、単にスタイリングされたものではなく深く結びついていると感じられるような、誠実で繊細で勇敢なプロジェクトに惹かれます。
──そうした表現に取り組むうえで、現代のプロダクトデザインやデザイナーはどんな課題に直面していると思われるでしょうか。
現代のデザインは、スピードと過剰生産に苦しんでいると思います。絶えず新しいイメージとプロダクトをつくりつづけることに対する巨大なプレッシャーがあり、それが深さや素材の理解を犠牲にしてしまっている。同時に、批評の文化も弱体化していると感じています。批評的な言説がなければ、この領域が知的に進化したり自らのシステムや価値観を問い直したりすることは、どんどん難しくなっていくでしょう。
──日本のクリエイティビティやデザインについては、どんな印象をおもちですか?
日本は私に深い影響を与えてくれた場所です。日本のクリエイティビティのなかにある、素材や儀礼、空気感に対する感受性を、私は心から尊敬しています。最も刺激を受けるのは、規律と工芸への姿勢を、実験性やハイブリッド性と両立させていく力ですね。つくることに対するある種の真剣さがそこにはあって、私にとっては本当にインスピレーションに満ちています。
──alter.の出展者にはどんなことを期待されるでしょうか。
最も記憶に残る作品は、必ずしも最も洗練された作品ではありません。信念や好奇心、つくり手と素材のあいだの真摯な関係をあらわにしてくれる作品です。完成された完璧さだけでなく、実験や脆さ、プロセスそのものを見せることに、どうか安心して挑んでほしいと思います。