alter.は、プロダクトデザインを更新しつづける──alter. 2026, Tokyo開催に向けて
february 9, 2026
2025年11月7日から9日まで行われたalter.は、初開催ながら約3,500人の方々に来場いただきました。オルタナティブなプロダクトデザインのあり方を提示することを目的としたalter.はどのようにつくられ、実際にどんな場を生み出していたのでしょうか? 2026年の開催に向けたプロジェクト募集も始まるなか、2025年の実践を振り返りながらalter.の意義を考えなおします。
オルタナティブなプロダクトデザインの追求
2025年11月、東京・日本橋でalter.が開催されました。次世代を担う多様な領域のクリエイターによるプロトタイピングやコラボレーションを促進し、オルタナティブなプロダクトデザインのあり方を提示することを目的としたalter.は初開催ながら多くの方に注目いただき、3日間で約3,500人の方々に来場いただくことができました。
alter.は単に若手デザイナーがプロダクトを発表する場をつくることではなく、さまざまなクリエイターが集まり、新たな価値を提示するための場や仕組みをつくることを目的としています。そのため、一般的なデザインイベントとは異なるアプローチを多く取り入れていました。
まずひとつめの特徴は、個人単位ではなく、異なる領域のクリエイターがチームを組むプロジェクト型の展示を前提としたことです。こうした仕組みをつくることで、クリエイターたちが何を問い、どのような体験として社会に提示したいのか明らかにし、コンセプトの設定から空間設計、来場者との関係性までデザインすることが可能となりました。
もうひとつの特徴は、出展料をとらず、むしろ展示・制作費として最大300万円の補助を行ったことです。プロダクトはプロトタイピングを行うだけでも大きなコストが生じやすく、若手クリエイターはやりたいことやビジョンがあったとしても実際制作へ着手できないケースが少なくありません。alter.は制作を補助することで、初めから商業的な制約に囚われるのではなく、自由な実験に挑戦できる場をつくるものでもありました。
そして、あくまでも主役はクリエイターや来場者であるため、会場設計や体験設計においてはフラットでプラットフォーム的な空間をつくったことも特徴のひとつです。そのうえで、ありきたりな展示ホールやホワイトキューブを用意するのではなく、どのプロジェクトも等価に目立つよう真っ青なフロアをつくったことが、alter.の空間を特徴づけたとも言えるでしょう。エントランスから展示ホールにいたるまで象徴的なデザインエレメントとして水平・垂直のラインを取り入れたことも、alter.のVIやWebデザイン、ポスターといったクリエイティブと一貫性をもたせ、会場内に留まらず一貫した世界観を立ち上げるためには必要不可欠でした。
alter.のアプローチは、MoMAやポンピドゥー・センターをはじめ国内外から集まったコミッティメンバーからも高く評価されました。「プロダクト」だけに閉じない場をつくり、その背景にある方法論やナラティブ、プロセスを含めてプレゼンテーションすることは、プロダクトと社会や生活を丁寧につないでいくことでもあり、現代社会におけるプロダクトデザインの価値を考えるうえで重要なものだったと言えます。

壁を超え自由な交流が生まれる場
これらのアプローチの結果、alter.には計11組のプロジェクトと59名のクリエイターが集まり、オルタナティブなプロダクトデザインのあり方を体現する場を生み出すことができました。各プロジェクトに参加したクリエイターのバックグラウンドは、実に多様です。写真家が中心となって立ち上げたプロジェクトもあれば、彫刻家やグラフィックデザイナーがアイデアを出し合うものもあり、なかにはダンサーが参加し会場でパフォーマンスを披露するものもありました。
(参加プロジェクトの詳細はこちら)
デザインの領域では、しばしば「これはデザインなのかアートなのか」「プロダクトなのかインスタレーションなのか」などそのジャンルやカテゴリーが問われることも少なくありませんが、実際に制作へ取り組むクリエイターたちはジャンルやカテゴリーに自分を当てはめることなく自由に領域を横断していることも事実です。異業種のクリエイターがコラボレーションする場をつくる、というと特殊な取り組みのように聞こえてしまうかもしれませんが、実際にはジャンルの壁が溶けた自由な交流こそが、自然なクリエイティブのあり方なのだとも言えます。
会場内では、プロジェクトの展示だけでなく多くの取り組みも行われました。たとえばトークプログラムにおいては、「プロダクトデザイン」そのものをデザイナーが語るのではなく、「改造と修理」「アジアの美意識」「ヒューマンインターフェース」「鑑賞者の関与」などプロダクトデザインを取り巻くさまざまな問題系にフォーカスし、起業家や研究者、アーティスト、テレビプロデューサーなど多様なゲストに登壇いただきました。これらのトークもまた、オルタナティブなプロダクトデザインのあり方を考えるための問いを生むものであり、私たちの生活とプロダクトの関わりを見つめなおすものだったと言えるでしょう。
alter.に向けて行われた10代向けの教育プログラム「眺める側のコンポジション」の成果も、会場では披露されています。このプログラムは「つくる側」ではなく「見る側=受け手」の視点からデザインを考えるもの。参加者たちは複数回のワークショップを通じて「見る」ことと向き合い、既存のプロダクトの新たな使い方を考えていくことで、出展クリエイターらの作品を購入できるマーケットの什器が設計されていきました。
さらに、参加クリエイターのひとりでもある杉野龍起の企画・ディレクションにより、さらに若いクリエイターやプロダクト以前のプロセスへ着目するサイドプロジェクト「retla.」も実施。展示と展示の隙間の“路地”を埋めるようにして、プロトタイピングの痕跡が披露されるとともに、クリエイターたちが集まり“雑談”を繰り広げるようなプログラムも行われました。
プロジェクトの展示だけでなくさまざまなプログラムが会場内で実施されることで、alter.は来場者がただ展示を観てまわる場ではなく、たまたま出会った人々が交流し議論する場を生み出していたように思います。多くの人々が参加しているからこそ、各ブースには担当クリエイターが滞在していることも珍しくなく、実際にプロダクトをデザインした張本人と交流する時間が生まれたことで、alter.はより立体的なイベントになったと言えるかもしれません。

アーカイブし、文化をつくっていく
こうした取り組みを通じて、alter.は初開催にも関わらず多くの方々に注目いただき、国内外のメディアからも取り上げていただきました。しかし、言うまでもなく、これはゴールや達成ではなく、スタートに過ぎません。イベントとしてのクリエイティブや会場設計についても、まだまだ改善の余地はあります。展示されたプロジェクトは「完成品」を提示するものではなくプロトタイピングを行うものであるため、人によっては荒削りに思われることもあったでしょう。
しかし、alter.は誰もが素晴らしいと感じられるクオリティの高いプロダクトを集めたいわけではありませんし、ただ毎年「イベント」を実施することを目的としているわけでもありません。alter.は完成度を競う場ではなく、価値基準そのものを問いなおしつづける場でありたいからです。そんな姿勢は、現代のプロダクトデザインを取り巻く環境と共鳴するものでもあります。プロダクトの製造ひとつとっても美しさや機能だけではなくライフサイクル全体を考える必要がありますし、これまで廃棄されていたものや見過ごされてきたプロセスへの注目は年々高まってもいます。
だからこそalter.は、短期のイベントよりも中長期のプロジェクトであることを重視しています。Webサイト上にプロセスを記録していくこともそんな姿勢の表れですし、今年3月には今回のイベントを一冊にまとめたアーカイブブックの刊行を予定しています。このアーカイブブックは日本各地の書店で一般販売されるのはもちろんのこと、国内外のミュージアムや教育機関へ送付されるものでもあります。刊行にあたっては、各地でイベントも行われるかもしれません。
もちろんイベントを成功させることも重要ですが、alter.の取り組みを後世からも参照できるよう、試行錯誤も含めてアーカイブしていくことは非常に重要です。そんな積み重ねがなければどれだけ優れたプロダクトが展示されても文化や文脈のなかに位置づけられることは難しくなってしまうでしょう。
すでにアナウンスされているとおり、alter.は今年も開催される予定であり、プロジェクトの募集が始まっています。今年も、世界各国からグローバルなデザインシーンをリードするキュレーターやデザイナーをコミッティメンバーとして迎え入れる準備が進んでいます。初回となる2025年の実践を踏まえ、alter.が生み出す場はさらに広がろうとしています。
alter.は、問いつづけます。デザインとは何か、プロダクトの価値とは何か、なぜ私たち人間にとってクリエイティブが必要なのか──不断に価値を問いなおし、それを更新しつづけようとすること。alter.は、そんな実践を積み重ねていくプロジェクトなのです。