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2025.11.06 Talk

受け手の創造性からアジアのクリエイティブシーンまで──トークプログラムが切り拓くプロダクトデザインのフロンティア

alter.の会場では会期中、毎日トークセッションが開催され、後日ポッドキャストとしても配信されます。受け手のクリエイティビティからインドネシアや中国のクリエイティブシーン、性のタブーを打ち破った「TENGA」の背景にあるデザインへの意志、修理や改造といったユーザーによるプロダクトへの介入など、トークセッションテーマはさまざま。現代のプロダクトデザインを取り巻く問題系を浮き彫りにする各セッションの内容をご紹介します。

7つのセッションが浮き彫りにする問題系

今回alter.では、計7つのトークセッションを開催します。会場で展示されるプロジェクトがさまざまな観点から新たなプロダクトを提示していくなかで、7つのトークセッションは展示とは異なる観点から現代のプロダクトデザインを巡る諸問題を浮き彫りにしていくことを目的としています。

まず口火を切るのは、11/6(木)のレセプション時に行われるオープニングセッション「いまここにある課題へ応答するために」(注:本セッションはクローズド開催となりますが、後日ポッドキャストとして配信予定です)。alter.のコミッティメンバーとして審査に携わったTanja HwangとOlivier Zeitoun、Kristen de La Valliere、中村圭佑が会場に集まるほか、オンラインでFormaFantasmaのSimone Farresinが参加し、alter.の幕開けを彩ります。

本セッションでは実際に展示プロジェクトを鑑賞したコミッティメンバーたちが展示へとフィードバックを行いつつ、改めて今回alter.というイベントが立ち上がった意義やその先に広がる風景について語り合います。気候危機やAIの台頭など社会を取り巻く環境の変化がプロダクトデザインにも影響を及ぼすなかで、コミッティメンバーたちによるセッションはいまプロダクトデザイナーがどんな課題に向き合うべきなのかを明らかにするものにもなるでしょう。本セッション内では、各コミッティメンバーによるアワード受賞作品も発表予定。会期中はどの展示プロジェクトがアワードを受賞したのかも明らかとなります。

オープニングトークに登壇するコミッティメンバー

プロダクトデザインの現在地はどこにあるのか

11/7(金)〜9(日)の会期中は、各日テーマを設けながら2つずつトークセッションが開催されます。初日となる11/7(金)は「プロダクトデザインの現在地」をテーマに、いまデザインシーンにおいて頭角を表しているさまざまなクリエイターが登壇します。

1つ目のセッションは「これからのデザインシーンはどこにあるのか」。今回alter.に参加する総勢50名以上のクリエイターのなかには、1990年代以降生まれの若いデザイナーも多く名を連ねています。インディペンデントに活動を展開する者から領域を超えたコラボレーションに取り組む者など、その活動はさまざまです。本セッションには多くのクリエイターが代わる代わる登壇しながら、これからのデザインシーンを牽引していくであろうクリエイターたちがデザイナーの役割をどう位置づけているのか、どんなムーブメントに着目しているのか、どんな課題を感じているのかなど、いま自身を取り巻くデザインシーンをどのように捉えているのか明らかにするものとなるでしょう。

続く2つ目のセッションは「いま、アジアの美を考える。」と題し、この10年で急速に発展しているアジア圏のクリエイティビティを追いかけます。本セッションに登壇するのは、いま中国やインドネシアから来日している3名のクリエイター。若くしてインドネシアグラフィックデザイナー協会の会長を務めた経験をもつグラフィックデザイナーRege Indrastudiantoと、中国・北京を拠点にクリエイティブスタジオ「Devolution」で活動するWanqi、中国の音楽シーンで異彩を放つレーベル「bié Records」を主宰しメディア事業も手掛けるMeng Jinhuiが登壇し、彼らとコラボレーションを広げるKESIKI代表取締役、石川俊祐によるモデレーションのもと、アジアのクリエイティブシーンを解き明かします。

ひとくちに「発展している」と言っても、国が変わればデザイナーたちの活動形態やクリエイティブ・エコシステムも異なるもの。デザインの領域ではいまなお欧米の影響力が非常に強いものの、今後はその勢力図も変わっていくかもしれません。本セッションが明らかにする現代アジアのクリエイティブシーンには、これからのプロダクトデザインを考えるうえでも重要なヒントが眠っているでしょう。

 

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中国のDevolutionは領域を問わずさまざまなプロジェクトを展開している。

個人がもつクリエイティビティの可能性

2日目の11/8(土)は「個と向き合うためのデザイン」と題し、マクロな状況へ目を向けた1日目から一転、ユーザーやデザイナーといった「個人」がどうデザインと向き合っていけるのか明らかにしていきます。

この日1つ目のセッションは「受け手のクリエイティビティを拡げる」。「デザイン」や「クリエイティブ」と言うとついプロダクトや作品を制作するクリエイターが着目されがちですが、鑑賞者やユーザーといった受け手もまた、クリエイティビティの担い手と言えます。果たして私たちは受け手のクリエイティビティをどう捉えるべきなのでしょうか。

そんな問いに応えるべく、本セッションにはalter.出展者のひとりでもあるDODI代表の杉野龍起と、演出家としてモノと人の関係に注目してきた福井裕孝、10代向けにワークショッププログラムを展開するGAKUがalter.に合わせて開催した「眺める側のコンポジション」の参加者が登壇します。これまで杉野は完成されたプロダクトをつくることだけでなく、どのようにさまざまな人々を「プロセス」へ参加させるか考えてきました。他方の福井は継続的に演劇作品を発表しながらも、モノが演劇へ参加する作品や劇場とモノ、人の関係に焦点を当てたリサーチを展開する、異色の演出家として知られています。そんな彼らのトークセッションからは、鑑賞者やユーザーを介した新たなクリエイティビティが立ち上がるでしょう。

対する2つ目のセッションは、つくり手の強烈な情熱や意志へフォーカスする「根源的欲求から始まるプロダクトデザイン」。“セルフプレジャー”をポジティブに言語化したTENGAの創業者・松本光一とalter.参加クリエイターのひとり、太田琢人が登壇し、クリエイターを突き動かすエゴ=情熱へと迫ります。

とりわけ松本はこれまでタブーとされてきた性の領域へ切り込み、3年の歳月をかけてTENGAという新たなプロダクトを発明したことで知られています。これまでTENGAがプロダクトデザインの観点から語られる機会は少なかったかもしれませんが、松本が固定観念に囚われず強い意志をもって実現したこのプロダクトはこれまでにない機能を通じて新たな市場を切り拓いた、稀有なものだと言えるでしょう。ただ自分のつくりたいものをつくるわけではなく、市場のニーズだけに合わせたものづくりを行うわけでもなく──デザイナー/アーティストとしてさまざまな作品を発表してきた太田とともに、TENGAから見えてくるプロダクトデザインの可能性を考えていきます。

 

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GAKUでは8月から11月まで全8回にわたるプログラム「眺める側のコンポジション」が実施された。

周縁からプロダクトデザインを見つめなおす

最終日となる11/9(日)は「フロンティアをデザインする」と題し、しばしばプロダクトデザインにおいて周縁化されがちなテーマへを目を向けていきます。これからの社会とプロダクトやデザインの関係性を考えるうえでは、むしろ周縁こそが重要となっていく可能性を秘めているからです。

まず1つ目のセッション「修理する権利、改造する自由」では、「修理」や「改造」といった営為へ着目します。とくに修理については、以前から欧州を中心に「修理する権利」の重要性が叫ばれていることが知られています。

スマートフォンをはじめとする多くの電化製品が、高機能化しリーズナブルにもなる一方で、一度故障するとユーザーが修理できない(しづらい)ものになっていること。ユーザーからすれば修理せずとも安価に新品と交換できる機会も多いため大した問題ではないように思われるかもしれませんが、私たちは知らず知らずのうちにユーザーとしての主体性を失っているとも言えるでしょう。本セッションでは修理する権利の問題に精通する吉田健彦が登壇し、なぜいま修理が重要なものとなっているのか明らかにしていきます。

他方で、吉田健彦とともに登壇するテレビプロデューサーの長澤智美は「改造」へ注目しています。彼女がディレクターを務める『魔改造の夜』は、名だたるメーカーのエンジニアたちが既存の家電製品やおもちゃを“魔改造”することで異形のプロダクトを生み出す人気番組として知られています。「プロダクトデザイン」というとデザイナーが提案する完成形のプロダクトが想起されやすいものの、すべてのプロダクトが無から生み出されたわけではありません。むしろ既存プロダクトの改造を通じて新たな機能や価値が提案されることもあったでしょう。本セッションは修理や改造のように、ユーザーが主体的にプロダクトへと介入する行為のクリエイティビティを考えていくことで、私たちとプロダクトの関係を再定義するものとなっていくはずです。

 

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『魔改造の夜』には改造によって生まれた独創的なプロダクトが多く登場する。

そして最後のセッションは「拡張するインターフェース」。私たちは日々多様なプロダクトと接していますが、なかでもコンピュータやスマートフォンといったデバイスは必要不可欠なものとなっていると同時に、人々の生活や体験を大きく変えていきました。それは単なるデジタルツールを超えて、私たちとプロダクトの関係性を変えていると言えるかもしれません。

 

本セッションに登壇するのは、この秋インターフェース論を発表するアーティストの布施琳太郎と、分析形而上学やロボット哲学を専門とする哲学者の小山虎。布施はスマートフォンの発売以降の都市における「孤独」や「二人であること」の回復に目を向けており、小山はコンピュータ思想史にも精通していることで知られています。スマートフォンの時代を超えてAIやヘッドマウントディスプレイ、ロボットなどさまざまなソフトウェア/ハードウェアが私たちの生活に浸透していくなかで、これまでとこれからのインターフェースを巡るトークは、プロダクトデザインがもたらす体験を考えるうえでも重要な示唆をはらんだものとなるでしょう。

 

今回alter.で開催される7つのセッションは会場で自由に参加できるほか、会期終了後にポッドキャストとしても配信される予定です。さまざまなテーマを巡って縦横無尽に繰り広げられるトークセッションの数々は、デザインに携わる人々にとっても、あるいはそうではない人々にとっても、「プロダクト」を考えるうえで新たな視点をもたらすものとなるはずです。