2025年、新たなデザインプロジェクト/イベント「alter.(アルター)」が始動します。
alter.の目的は、プロダクトデザインやインテリアデザインを中心にデザインの価値や創造性を更新することにあります。今年は11月7日(金)から9日(日)まで東京・日本橋三井ホールで「alter. 2025, Tokyo」を開催し、さまざまなクリエイターによって構成された多くのプロジェクトが披露される予定です。私たちはこれまでにない形式のデザインイベントを開催することで、日本のクリエイティブシーンやデザインシーンを更新していきたいと考えています。
プロジェクト型の展示と新世代へのフォーカス
alter.には、2つの特徴があります。
まずひとつめは、見本市のように完成したプロダクトを中心とするイベントではなく、複数のクリエイターがチームを組成して立ち上げたプロジェクトを中心としたイベントであること。すでに完成したプロダクトを発表する見本市型のイベントはたしかに重要であり、多くのデザイナーやクリエイターが作品を発表する場として機能してきました。しかし、プロダクトや空間のクオリティはもちろんのこと、デザイナーのナラティブや問題意識が問われる機会も増えているからこそ、プロダクトだけではなくその背景やプロセスが提示される場があってもいいはずです。
そこでalter.では、今回のイベントに向けてクリエイターの方々が企画したプロジェクトを主体とした展示を実施します。異業種のクリエイターが複数人参加したチームを組成することを条件とし、会場では、完成したプロダクトそのものだけでなく、その背景やプロセスもプレゼンテーションされ、ときにはパフォーマンスが行われることもあります。また、alter.としてクリエイションのプロセスにも並走しながら、新たな表現が生まれる場をつくっていこうとしています。
ふたつめの特徴は、主に40歳以下の新たな世代にフォーカスしていることです。世界的・歴史的に見ても日本のプロダクトデザインはリスペクトを集めていますが、他方で若い世代が活躍しづらい環境が生まれてしまっていることも事実です。alter.は、次の時代を担っていく新たなクリエイターが「ここは自分たちの場所である」と感じられる場、異分野のクリエイターが集まり次世代の“発火点”となるような場をつくっていきたいと考えています。

alter.は異業種のクリエイターからなるチームが企画したプロジェクトを中心として展示空間を構成していきます。
「プロダクトデザイン」に求められるもの
alter.は、こうしたイベントを通じて、改めて現代における「プロダクト」の意味や価値を再定義しようとするものでもあります。近年、多くのクリエイターが領域を横断しながら活躍していくなかで、「アート」と「デザイン」の差異が問われる機会も増えています。もちろんこの問いに模範解答はありませんが、アートと(プロダクト)デザインがないまぜにされてしまうことも少なくありません。
いま日本で多くのアートイベントやデザインイベントが行われているからこそ、alter.は明確にプロダクト(デザイン)の価値を定義し、より強度のある場をつくっていきたいと考えています。その定義とは「機能が明確であること」「新しい美の提案があること」「常識や慣習から解放されていること」「持続的な意志と責任をもっていること」です。
プロダクトとして提示されるものである以上、今回のイベントで展示される作品は一定の再現性をもって製造できるものであり、人や社会に対して意識的に働きかけるものである必要があると私たちは考えています。そして、規範的な美の価値観を見直し、社会のルールや固定観念から縛られることなく、新たな視点を提示していることも重要なはずです。加えて、ただ作品を展示して終わりでは意味がないとも考えています。一時的なプレゼンテーションではなく、イベント後も継続して意志と責任をもって遂行されるプロジェクトであることを私たちは重視しています。

alter.が定義するプロダクトデザインの対象範囲と評価基準。
エコシステムを持続させるためには
今回alter.は、プロジェクト型の展示から出展料をとらず、むしろ1プロジェクトに対し最大300万円を出資し展示補助を行っています。クリエイターが出展料を支払い作品を展示するデザインイベントが多いなか、この点もまた、alter.の特徴と言えるかもしれません。
こうしたシステムは持続性のない取り組みと捉えられやすいものですが、私たちはalter.そのものだけでなく、クリエイティブ・エコシステム全体の持続性を重視しています。たしかにalter.の持続性だけを考えるならば出展料をとるシステムの方がよいかもしれませんが、出展料を集めることに偏ってしまうと、文化的価値に対して経済的価値が優先されてしまうリスクも生じます。社会的に見ても文化的価値が経済的価値に“換金”されることが多いなかで、文化的な活動から新たなものが生まれる可能性に賭ける場が存在することは、大きな意味があるのではないでしょうか。
歴史的に見ても、各時代においてさまざまなパトロンが同時代の文化を支えてきました。なかには自分の財産を溶かしてしまったパトロンもたくさんいるかもしれませんが、ある種バトンをつなぐようにしてクリエイターが支援されてきたことで、クリエイティブ・エコシステムは醸成されてきたとも言えるでしょう。もちろんalter.が単年で終わってしまっていいものだと考えているわけではありませんが、私たちはalter.を通じて、経済的な面でも新たなデザインイベントの枠組みをつくっていくことに挑戦したいと考えています。

タイムラインに沿って、今後本Journalでもさまざまなコンテンツを発信していきます。
プロセスの発信とアーカイブ
こうした持続性を重視するからこそ、11月のイベントに向け、今後alter.のWEBサイトでは継続的にプロセスを発信しアーカイブも行っていく予定です。イベントを「お祭り」のような場として終わらせてしまうのではなく、プロセスを開示しきちんとアーカイブしていくこと。未来からも参照できるアーカイブを残していくこともまた、日本のクリエイティブ・エコシステムの土壌を豊かにしうるものだと私たちは考えています。
今後、本Journalでは、さまざまなコンテンツを公開していきます。MoMAやポンピドゥー・センターなど世界的な文化機関のキュレーターや気鋭のデザイナーから構成されるコミッティメンバーの紹介や、コミッティメンバーによる審査会の報告、採択されたプロジェクトの紹介をはじめ、随時最新情報を発信していきます。こうした発信を通じて、alter.が考えるこれからのプロダクトの価値や、デザインイベントの可能性を提示できたらと思います。
また、11月のイベントではプロジェクトの展示だけでなく、トークやワークショップ、パフォーマンスといったさまざまなプログラムを実施するほか、実際にプロダクトを購入できるマーケットの場を設け、出展作品を表彰しさらなる広がりにつなげるアワードの実施も予定しています。こうした多角的な取り組みを通じて、新しいクリエイティブシーンを醸成していくこともまた、alter.の目的と言えます。
世界的に見ても社会が急速に変化していくなかで、日本のクリエイティブシーンには変化が求められていると私たちは考えています。時代を更新するためには、何を変え、何を変えないべきなのか。その問いに答えはないかもしれませんが、常に問いを繰り返しつづけなければ、オルタナティブな可能性は見えてこないはずです。alter.は新たなデザイナーを発掘し、グローバルな文脈とも接続し、ジャンルを超えた同時代のクリエイターが集える場をつくっていくことで、文化的なイノベーションの原動力を生み出していくことを目指していきます。